ヒット商品(売れる飲料)の開発を狙っている、飲料メーカー勤務の研究者、松島さんの場合
経験サンプリング法(Experience Sampling Method:ESM)は、その時その場での人々の行動や状況を、リアルタイムで複数回測定する手法です。
たとえば、多くの研究やマーケティングでは、1度だけ測定を行うアンケート調査がよく用いられるでしょう。しかし、たとえば人々のSNS(Twitter)の利用経験を把握したいとして、「Twitterを通じたコミュニケーションは、おおむね、どれくらい楽しいものですか?」と質問されても、思い出せない経験もたくさんあるでしょう。また、状況によって、Twitterを利用して楽しいときもあれば楽しくないときもあるでしょう。日常の中でダイナミックに変化するTwitterの利用経験を詳細に把握したい場合、1度だけ測定するアンケート調査を行って、ユーザーが過去のTwitter利用経験を思い出して要約的に解釈した「思い出したTwitter利用経験」を1度だけ測定するだけでは不十分です。
今この瞬間の経験を測定する手法であるESMでは、たとえば、1日に6回、研究者が設定したランダムな時刻(例:nine:34, 12:23, 17:51, 20:01, 22:38…)に、2週間にわたって、Twitterの利用経験について繰り返しリアルタイム測定を行います。
一例として、Twitterを利用してから毎回30分以内に、
・今Twitterを利用して誰とコミュニケーションを取ったか
・それはどの程度楽しかったか
・楽しさ以外にどのような感情を抱いたか
などを記録します。また、その時その場の状況、たとえば
・仕事をしていたかどうか
・どこにいたか
・誰と一緒にいたか
などを記録します。
このような記録を何度も繰り返すことで、人々の経験を、振り返りではなく、その時その場で測定することができます。日常生活の中で人々の経験を繰り返し測定することで、1度だけ測定するアンケート調査ではわからない、その瞬間に生きる人々の経験を捕まえることができます。
さて、このESMを使うメリットは何でしょうか? より具体的に、ヒット商品の開発を狙っている飲料メーカー勤務の研究者である松島さんの例で考えてみましょう。松島さんはとにかく売れる飲み物を開発したい。そのため、人々がどのような理由からある飲料を購入しているかをまず知ろうとします。
松島さんはまず、「あなたは普段どのような理由で、ある飲料を購入していますか?」という1回きり測定するアンケートを実施しました。しかし、消費者からはあまりピンとくる回答が得られませんでした。そこで、知り合いの研究者がオススメしていたESMを使ってみようと考えます。ESMを使うと、松島さんにとってどのようなイイコトがあるのでしょうか?
実は4つのイイコトがあるのです。
①ある飲料を買った理由について、記憶のゆがみが少ない回答が得られる
(例:回答者はそのときの気持ちと行動を答えるだけ)
②ある飲料を買ったときの状況を詳細に記録できる
(例:仕事中か,どこにいたか、暑かったかなど状況を同時記録できる)
③何回も測定するので、飲料を買う行動の時間的な変化のパターンがわかる
(例:人々がコーヒーを飲みたくなるピークが朝と昼に2回訪れ、昼から夜にかけて低下していくなど)
④何回も測定するので、飲料を買う行動の複数時点間の影響関係がわかる
(例:日中感じたストレスがその日の夜の飲酒行動にどう影響するかなどを分析できる)
詳しくは、次回以降の記事でそれぞれ説明していきます。お楽しみに!